最近蒔絵に凝っていまして、といってももちろん我流だから好い加減なもんなんですが、木の箱とかがあると塗ってみたくなります。これは税金対策用に医療領収書とかを入れておくための箱で、元はただの菓子折りだったかな。ぺらぺらのベニヤみたいな板の箱だったのにカシューを掛け、金銀銅(ただし金は真鍮、銀はアルミニウム)の粉を振ったものです。
参考までに書いておきますが、この中で一番の難物は銀色をつける為のアルミニウム。ご存知の方もいらしっしゃるかと思いますが、実は警察の鑑識で指紋の検出に使われています。つまり、皮脂のようなものに非常につきやすい性質を持っており、これが後で面倒なことを引き起こしました。一応対策も書いておきましたので参考にしていただければ幸いですが、基本的には出来れば銀は一番最初に振った方がいいと思います。
これが蓋です。最初の段階で考えたのは、出来ればSFに関係ある絵にしたいということ。そこで銀粉を銀河のように散らして宇宙空間を表現し、あとは木星と土星を描いてみました。
漆(カシュー)にも様々な色が用意されてはいますが、私の感じとしてこういう場合は如何にも和風というか、出来るだけ少ない色数、それも黒と朱を基本とするのが良いと思ったので、一番最初に考え付くのが宇宙空間なんです。色数を余り増やしてしまうと、結局は絵の具で描いて透明ニスを掛けたり、或いはペンキと変わらないんじゃないかと思いまして――。
それで前述のように銀から散らすことになったのですが、これは偶然です。後で下のように面倒な目に遭うとは、この時点では気づいていません。ただ、結果として背景の宇宙はそこそこのものが出来上がりました。問題は惑星です。
木星や土星の表面には色々な模様が走っていまして、土星の様に輪があればともかく、木星はこれを描かねば何だかわかりません。それで金で丸を書いた後に銅と黒で模様らしきものを入れ、更に大赤班を描きます。これが入って初めて木星らしくなり、それまではただの記号でした。いや、絵は結局のところ、余程写実的に描かない限り記号だし、特に蒔絵はそういった要素が強いのですが、その様式の中であれだけの美を作り出したのは、やはり東洋の感覚は偉大だと思います。土星の方は輪があるので問題ありません。それでこうなったのですが、どうも背景に比べて惑星の部分が浮いてしまったのが残念ですね。
蓋の裏には
実は順番としては、まず背景の黒に銅を蒔いて水中を表し、その上に水母を描いて周りからアルミニウムを散らして真ん中の辺りは陰影を表現したかったのですが、これが甘かった。アルミが付き過ぎる為にほとんど真っ白で、おまけに周りの水の部分まで白くなってしまいました。カシューが充分乾いてからやったつもりなのに、木目の溝に入り込んでしまったのです。
まず水で洗ってみます。落ちません。というか、この時点で手やテーブルにまで付着してしまい、これも拭いても駄目です。そこで考えて見たのは、これが皮脂、つまり油に付きやすいんじゃないかということ。それならば、とばかりに中性洗剤を振り掛けてお湯で洗ってみたら、本当に溝にはまり込んでしまったのはともかく、油分で付いたものはかなり落とすことが出来ました。手も、石鹸で洗えばかなり落とせます。テーブルは中性洗剤を染み込ませた雑巾で拭きました。
それから真ん中に黒を塗りなおし、極めて控えめに銀を散らします。結果として、どうもミズクラゲというよりは、メデューサの頭みたいになってしまいましたが、学名に「medusa」を持っていた(ただし、昔の話らしい)ミズクラゲにも似ていません。まあ、SFといやあSFですね。
さて、箱の中、というか底です。これは本格的にSFの絵――フランク・ハーバート作「デューン」の砂虫です。
アラキス――
砂丘はやはり銀を上から散らして陰影を付けたかったのが、やはり付き過ぎで失敗。ほとんど真っ白です。これは気が向いたら全部削ってやり直してもいいんだけど、そもそも箱の底に絵を描くのが難しいし、そこまでエネルギーのゲージが上がる日が果たして来るのかどうか。どうせ中に書類を入れちゃったら、蓋を開けても見えないわけだし――。