The Songs of Distant Earth

      Mike Oldfield

      wea 4509-98581 2

    In the Beginning
    Let There Be Light
    Supernova
    Magellan
    First Landing
    Oceania
    Only Time Will Tell
    Prayer for the Earth
    Lament for Atlantis
    The Chamber
    Hibernaculum
    Tubular World
    The Shining Ones
    Crystal Clear
    The Sunken Forest
    Ascension
    A New Beginning


遥かなる地球から


「遥かなる地球の歌」 アーサー・C・クラーク

     太陽がスーパー・ノヴァ化すると知ったために地球を脱出した人々の子孫と、その後に地球を脱出した最後の宇宙船の出会いを書いた傑作。もともとは短編だった(「天の向こう側」収録)作品を、クラークは30年の後に素晴らしい構想を以って長編化した。
     21世紀の始め、地球の人々は太陽ニュートリノの検出によって、1000年後には太陽が爆発することを知った。この期間に脱出計画は少しずつ進められ、やがて人類のDNA遺伝情報を積んだ宇宙船が打ち上げられ始める。そして、その中の一つが惑星サラッサに植民地を作り、人々は平和に暮らしていた。しかし地球本星の技術も進歩を止めたわけではなく、ついに「量子駆動」の発明とともに、遺伝情報ではない、本当の肉体を持った人間が宇宙船「マゼラン号」に乗って飛び立った。
     物語は、マゼラン号がサラッサに立ち寄った時の出来事を、むしろ淡々と書いていくことによって進められます。――光速を越える宇宙船は出来ない。ワープ航法の「発明」で、SFでは何か当たり前のように無視されるこの事実に真正面から取り組んだ結果、この小説は、私たちが今住んでいるこの星に対する切ないまでの想いを見事に描いた傑作になりました。たとえ太陽が爆発することがなくとも、私たちの子孫はいつかどこかの星で、「遥かなる地球の歌」をうたうのでしょうか。
     翻訳は早川書房から出ています。最近、文庫にもなりました。ぜひ読んでみて下さい。

「遥かなる地球の歌」 マイク・オールドフィールド

     「ヘヴンズ・オープン」を最後にヴァージンを離れたマイク・オールドフィールドが、「チューブラー・ベルズII」に続いてWEAから放った第2弾。クラークの傑作SF小説「遥かなる地球の歌」を元にしたコンセプト・アルバム。おそらく、標題ロックのジャンルとしては、キャメルの「スノー・グース」と並ぶ秀作だと思われる。どちらかといえば起伏が少なく、事件らしい事件も起きない原作の小説を、独特のミニマル・ミュージック的なフレーズや、美しいギターとシンセサイザーで鮮やかに表現してみせた。原作を読んだ人なら、終わり近くに聞こえる秒読みと、最後のマゼラン号のエンジン音に、たまらない切なさを感じるであろう。マッキントッシュ版のCD−ROMも一緒に発売されている。

 私がマイク・オールドフィールドに出会ったのは、高校2年の時、ご多分にもれず、「エクソシスト」の公開とともに出された「チューブラー・ベルズ」を聴いたためです。「チューブラー・ベルズ」は、美しいテーマや繰り返される変拍子、ありとあらゆる楽器の中から選ばれた音などの音楽的要素もさることながら、なんといってもほとんどの楽器を作曲者自身が一人で演奏してテープで重ねていくという、その方法論に心を魅かれるものがありました。
 音楽とは必ず「演奏」を伴うものであり、その限りに於いてはどうしてもコンサート会場などの「場」が必要です。しかし、オーヴァー・ダビングでテープを作っていく作曲法ならば、絵や小説と同じ、「場」を必要としない個人作業で完成させることが出来ます。幸いにも手持ちのデッキにはミキシング機能がありました。こうして私は、キーボードの練習を開始したのです。
 そういうわけで、大学でSF研究会に入ったのも、もともとは東工大のSF研が同人誌だけでなく、映画を作っていたためでした。テープ音楽の場合、ステージでライヴをすることも出来ませんから、映画音楽というのは絶好の発表場所だったのです。幸いにも、当時(70年代)のSF研はプログレッシヴ・ロックの好きなメンバーが集まっていました。そんな邪まな理由で入った私ですが、これは同時に「SF」との本格的な出会いでもありました。仲間達との語らいや議論を通じてSFの素晴らしさを知り、自分でもちょっとした小説を書いたりしていた学生時代。その後、コンヴェンションなどの集まりを通していろいろな人と出会い、私はすっかりSFに染まっていったのです。
 さて、大学を卒業して10数年、最近はSFの集まりにも顔を出さず、雑誌等もあまり読まなくなっていました。「ニューロマンサー」が出版されてサイバー・パンクのブームが訪れ、その頃からSFがよくわからなくなってきたのです(こういう人、多いみたいですね)。同時にコンピューターを手に入れて、少しずつ別のものに興味が移っていく自分に忸怩たるものがありながら、ずるずると時だけが経ってしまいました。自分はSFを裏切ってしまった。そんな想いに眠れなくなる夜も、何度かあったことか(何を莫迦なことと思われるかも知れませんが、本当のことです)。しかし、「遥かなる地球の歌」のCDが出されたのをきっかけに、わずかながらも昔の情熱が蘇ってきました。私が失っていたSFへの想いは、今再び、この名前とともに帰って来たのです。
 マイク・オールドフィールドに乾杯!


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