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とりあえずは、長らく幻になっていた「ハージェスト・リッジ」の1974年オリジナル版と「イン・ダルシ・ジュビロ」の初版がデジタル化されたことに素直に喜び、これも名のみ知られて内容が不明だった「スパニッシュ・チューン」が実は「ハージェスト・リッジ」のB面抄出だったことにがっかりというところか。
「ハージェスト・リッジ」はCDになる際、どういう訳か「ボックスト」の版が収録されてしまい、日本版もそれに習ってしまった。したがって、手持ちのLPからデジタル起こしをして聴いていたのだが、これで初めて正規のCDが出たことになる。
よく知られているように、「チューブラー・ベルズ」、「ハージェスト・リッジ」、「オマドーン」の三作は、「ボックスト」にリミックス版が三枚とも入れられた上、その後「呪文」までの沈黙期間が長かった(今にして思えば、それ程でもなかったか)ためか、「初期三部作」などと呼ばれている。勿論、オールドフィールド当人にはそんなつもりはあるまい。その後「チューブラー・ベルズ」のみが繰り返し作り直され、ライヴでは「オマドーン」は結構演奏されたが「ハージェスト・リッジ」はオーケストラ版以外聴いたことがない。製作当初は「前作(=チューブラー・ベルズ)を越えると思う」などと言っていたらしいが、結局気に入らなかったのだろうか。CD化についてもその扱いはぞんざいとしか思えず、真意を計りかねていたところだ。案外、今回のリリースでジャケットが変更になったことも、何か関係があるのかも知れない。
さて、今回の注目は当然、どちらも5.1チャンネルリミックス版のDVDだろう。CDにも同じ物が収録されているが、もし機会があったら是非DVDサラウンドで聴かれることをお薦めする。特に「ハージェスト・リッジ」の最初の方で、第一主題をアコースティック・ギターが引き継ぐところ、微妙に前後でエコーが掛かり、不思議な感覚に捕われる。このヴァージョンは、オリジナルと「ボックスト」の双方の良いところを取り入れ、更に少々仕掛けがしてある。例えばパート1の5分40秒でアコースティック・ギターがコードを掻き鳴らしてすぐに戸惑ったようにフェードアウトするところ、或いは第二主題の部分、オーボエがすぐに参加せずギターの独奏で始まる点など、何か元の邦題についていた「夢と幻」を見る想いだ。B面の女性コーラスも、こちらはオリジナルよりしっかりと聞こえ、「ボックスト」の長所が生かされている。個人的には、この版が最高の出来ではないかと思う。
難を言えば、どうもトランペットの息継ぎ個所が拙いように聞こえる部分、これはオリジナルからそうだったのかも知れないが、ミックスのし直しで目立つようになってしまったのかも知れない。録音技術の進歩は、当然演奏者の技術も生で出てしまう。勿論、シンセサイザーなどを使えば簡単に直せたのだろうが、そこはオールドフィールドの公平さなのだろう。自分で演奏した部分ではないのだから、そこを勝手に入れ替えるのはどうかと思ったのではないか。
「オマドーン」の方は――。
こちらは元々、「ボックスト」のリミックスでも音量の調整や、B面の男性コーラスなどを抜かしてほとんど手を入れられなかった。今回も三作の中ではもっとも変化していない。何となく音が明確になったような気がするのは思い違いだろうか。当然、ジャケットも同じである。
で、こちらには「イン・ダルシ・ジュビロ」、「ファースト・エクスカージョン」、「アージャース」、「ポーツマス」の四つが収録されているが、新版などではない。そもそもこれらは「ボックスト」に収録されているのだから、4チャンネル・サラウンドが存在する筈である。本当は、是非そちらをDVDに入れて欲しかったところだ。これには少々がっかりした。
更に、どちらも「チューブラー・ベルズ」の時と同じくデモ・ヴァージョンが収録されているが、個人的には資料的価値はあるものの、そもそも未完成な作品の放出である訳だから、おまけ以上の価値を余り認めていない。ただ、「オマドーン」については、初めからかなり完成されたデモだったのだなあ、とは思った。
それにしても、「オマドーン」のDVDメニューに流れるギターソロのヴァージョンは、何処かにあるのだろうか。音の良さなど考えると、今回のDVDの為に演奏されたようにも思えるのだが、詳しくは定かでありません。あと、「呪文」以降はどうするんだろうなあ。全部をサラウンド・ミックス化は流石にないと思うんだけど、「エクスポウズド」だけはLPがSQマトリクス4チャンネルだっただけに、是非SACD化して欲しいものである。