「チューブラー・ベルズ」SACD版

マイク・オールドフィールド

    SACDマルチチャンネルエリア
    SACDステレオエリア
    通常CDエリア




 実はこの盤は、その存在だけはずっと前から知っていたものである。しかし、とにかくSACDの再生機が存在しないころに出た(何と言うリリースをするものだ!)ので、なかなか買う機会がなかった。それが最近(宇宙暦36年現在)になってようやく手の届く価格帯で再生機が出始めたので、購入することに決めたものだ。

 内容は、SACDステレオ、SACDマルチチャンネル、通常CDの三つの領域から成っている。この中でSACDマルチチャンネルだけが異なる録音であり、何と長い間CDでは幻(単に私が手に入れられなかっただけかも知れないが)になっていた「ボックスト」のヴァージョンが入っている
 「チューブラー・ベルズ」はLPの時代から奇妙なリリースが続いていた。同じV2001に二通りあるのだ(もっともマイク・オールドフィールドの場合、これは「チューブラー・ベルズ」に限ったことではない)。最初に出たヴァージョンが緑色のレーベルに変わった際、どういうわけか、「ボックスト」の録音から最後の「ホーンパイプ」の部分だけをオリジナルに差し替えたものが出回り始めた。ピクチャーレコードもこのヴァージョンを採用している。しかしCDになった時にはなぜかオリジナルに戻り、不思議なことにはCD版の「ボックスト」も、全体はオリジナルで「ホーンパイプ」のみがリミックスという奇妙なものになる(話によると、このCDにも二種類あるらしい)。そのため、私は長い間「ボックスト」の本当のCDは手に入れられなかったのである。
 それが今回、ようやくこの正規ヴァージョンを手に入れることが出来たことになる。まずはこれだけでも、充分に価値があると思う。しかし、このSACDの価値はそれだけではない。
 実はこのヴァージョンは、LPのころ既にSQマトリクス4チャンネルで録音されていた。ただ、私の持っていた再生機はこの効果を十全に再現することが出来ず、まあはっきり言って、よく違いがわからなかったのである。今回のSACDは、それが完全に分離するようになったので、どういうつもりだったのかがよくわかるようになった。
 とは言うものの、2チャンネルで再生しても明確にわかる違いはいくつかある。パート1中頃の男声コーラスのハミングがオリジナルは2回なのが3回になっていること。同じパートの最後でベースのリフに楽器が重なっていくところ、「リード・アンド・パイプオルガン」(何のことだろう。電子オルガンの音にしか聞こえないのだが)の部分の差異。パート2最後の「セイラーズ・ホーンパイプ」直前のギターの音量、そしてその「ホーンパイプ」の部分でヴィヴ・スタンシャルのナレーションが入っていること。細かい違いはもっと無数にある(楽器の位置や、ミキシングの音量など)が、これだけでもすぐにわかる。したがって、このSACDは一枚にオリジナルとリミックスを同時収録したものということになり、値段から考えればむしろ安い。

 いずれにせよ、ようやく「ボックスト」のリミックスがデジタル化されたのは非常に喜ばしいことである。今は「オマドーン」をサラウンド化しているということであるが、ぜひとも「ハージェスト・リッジ」のオリジナルを同時収録した版を出して欲しいものだ。あれもまたどういうわけか、現在出ているCDは「ボックスト」をステレオにダウンミックスしたものに挿し変わっている。見識のないことをしてくれたものである。
 そう言えば、「エクスポウズド」のライヴもLPはSQマトリクス4チャンネルである。マイク・オールドフィールドが早くから立体音響に着目していたことがわかる。ぜひともSACDかDVDオーディオでサラウンド化してもらいたい。

宇宙暦36年3月4日


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