Tubular Bells 2003

Mike Oldfield

    Part One

      Introduction
      Fast Guitars
      Basses
      Latin
      A Minor Tune
      Blues
      Thrash
      Jazz
      Ghost Bells
      Russian
      Finale

    Part Two

      Harmonics
      Peace
      Bagpipe Guitars
      Caveman
      Ambient Guitars
      The Sailor's Horn Pipe


 いいなあ。音も演奏もいい。当然と言えば当然だが、30年経った再レコーディングはおそろしく粒立ちと抜けの良い出来である。まさにこの、CGで作ったジャケットの印象そのものだ。デジタルレコーディングの威力をまざまざと見せ付けられた思いである。
 最初にマナースタジオで録音された「チューブラー・ベルズ」は、それでも当時の最新技術を使って製作されていた。初めて聴いた時は高校生で、こんなにきらびやかな音が出るもんなんだなあ、と感心したのだが、今聴くとさすがに音の輪郭がぼけているよね。
 デジタル録音に関しては未だに嫌っている人もおり、それは好みの問題だから仕方がない。ただ、「チューブラー・ベルズ」を改めてデジタルで聴いてみて、結局世の中にはデジタルに向いているものとそうでもないものがあるのかな、と思い始めている。「チューブラー・ベルズ」は、ロックにしては珍しいほどのダイナミックレンジを必要としているし、特に冒頭部のあのテーマなどは硬くて冷たい音がよく似合う。更に、オーヴァーダビングを繰り返す録音法では、こうしてデジタルミキシングを使った方が音がぼけなくてすっきりするわけで、「チューブラー・ベルズ」は本来こうした録音を求めていたはずなのである。

 それにしても、これで何度目の録音だろう。普通に発売されたものだけで、オリジナル、オーケストラ、4チャンネルリミックス、ライヴとあったから、5回目になるわけだ。その他、「エッセンシャル」のビデオとかもあるし、ロックの曲でこれだけ再録音を繰り返されるのも珍しい。更にこれは、サリアンジーの時の作品を抜かせば、いわゆる処女作なのである。これまた、ここまで処女作に縛られる人も他にいないだろう。「チューブーラー・ベルズ」には「2」も「3」もあるし、「ミレニアム・ベル」もそのプロジェクトの一環だ。更に「ファイヴ・マイルズ・アウト」と「ブルー・ピーター」には、明らかに主題の引用があるし、「呪文」の第一主題だって、パート1の真ん中辺りの応用である。あれだけのアルバムをリリースして、そのほとんどが傑作とは言わないまでも水準作以上であるにもかかわらず、マイク・オールドフィールドは「チューブラー・ベルズ」に延々とこだわり続けている。それほどあの曲の独創性とインパクトが高かった(「完成度」という点では、何だか散漫な印象を与え、今一つである)ためだが、何か怨念とまでは行かなくても、執念のようなものを感じるのは私だけだろうか。
 折りしも一方では、ちょっと前に「エクソシスト」がディレクターズ・カットで再上映された。日本における「チューブラー・ベルズ」の認知が始まったのは明らかにこの映画が原因だし、私の職場の高校でも、生徒たちがこの曲を知るようになっている(たとえ、「エクソシストのテーマ」としてでも)。おそらくイギリス本国では、改めてマイク・オールドフィールドの音楽が見直されることになるに違いない(日本ではどうなんだろうな。駄目だろうな)。

 しかし、デジタル時代にその技術を使って蘇ったとはいえ、内容は相も変わらずの人間の手による演奏である。惜しむらくは管楽器の部分がサンプリングに置き換わっているが、ギターもキーボードもパーカッションもきちんと手で弾かれている。多分、サンプリングに置き換わった部分もそうなのだろう。と言うより、オリジナルと違ってすべてを自分で演奏したかったからこそ、サンプリングを使用したのではないか。
 だいたいが、「チューブラー・ベルズ」や「オマドーン」のようなミニマル音楽は、現代のテクノロジーを使えばいとも簡単に出来てしまうものである。もともとが電子楽器を多用しているロックで、しかもサンプリングがこれだけ発達していれば、それは尚更だ。現に、私自身も打ち込みでマイク・オールドフィールドの曲をいくつかやっているが、再現性はそんなに悪くない。しかし、それをこれだけ手間隙かけるところに、マイク・オールドフィールドのこだわりがある。音楽はあくまでこうでなくてはならない、という声が聞こえるような気がする。

 今望むことは、最初の時には出来なかった「妥協無しのライヴ演奏」である。「チューブラー・ベルズ2」も「3」も出来たのだが、「1」に関しては未だに実現していない(と思うんだがなあ)。初期のマナーでのスタジオライヴを見る限りでは、ロイヤル・アルバート・ホールでの演奏はまったく不完全な出来である。いろいろと事情もあったのだろうが、今ならこうしてすべてが再録音されているからには、充分可能だと思うんだが……。
 特に、CDではシンセサイザーで演奏されていた管楽器も、ライヴならちゃんと本物で演奏されるはずである。これこそが究極の「チューブラー・ベルズ」になるに違いない。

 おっと、一つ忘れていた。付属しているDVDの5.1チャンネルリミックスは、DVDオーディオで再リリースされるらしい。「ボックスト」の時にも4チャンネルにリミックスされていたくらいだから、「チューブラー・ベルズ」は立体音響にもこだわっている。8月の発売が待たれる。今回と同じく、リージョンフリーだと有難いのだが……。

宇宙暦35年7月6日


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