東京ディズニーランドにあるスプラッシュ・マウンテン。後ろから2番目の向かって右席で顔をしかめているのが妻である。笑うしかない。
 以前に勤務していた高校の遠足の引率で東京サマーランドに行った。ここは基本的に大人用の施設らしく、余り子供向けのアトラクションがない。わざわざ東京セサミプレイスという幼児用の施設を併設しているのも、そのためだろう。あるのは所謂「絶叫マシン」がほとんどである。
 私は高い所が苦手だ。飛行機にも出来れば乗りたくない。だから今回も、生徒がいろいろやっているのを下から眺めるだけに留めるつもりだった。ところが、いざ園内で自由行動という段になって、われわれ引率者の手にもスタンプが押されてしまったのである。これは紫外線を当てるとマークが浮かび出るというもので、要するにフリーパスとして園内の乗り物にいくらでも乗れるようになっている(例外が一つあるが、後述)。困った。私は貧乏性なのだ。3時間余りの自由時間、これをまったく使わずにただ見ているだけなんてことが出来ようか。いや出来ない(反語)。
 というわけで、結局生徒と一緒に絶叫マシンを片っ端から試すことになってしまった。平日ということで、客は高校生(の遠足)ばかりである。人気アトラクションも並ばずに出来る「入れ食い」状態。フリーフォールだのハヤブサだの、ひっくり返るスタイルのジェット・コースターだの、最終的にはほとんどのアトラクションをこなしてしまい、同僚の教員の間で「英雄」になってしまった(もちろん、学校の先生になろうなんて人たちは、こういった物が苦手である)。

 なんというか、こういった絶叫マシンについて一言でいえば、「後悔先に立たず」という所か。あの、ジェット・コースターで一番恐いのは、最初のチェーンで引っ張られて上がっていく時である。段々引き上げられていくにしたがって倍増する、これから起きることへの予感。風が次第に強くなっていく。ああ、自分は何と言う莫迦なことをしてしまったのか。見れば、コースはあちこち歪んでいる。もうすぐ頂上だ。うわあ、降ろしてくれ。

 ゴォーッ!

と、走り出してしまうとさほどでもないのがほとんどである。だからこそ、再び別のものに挑戦してしまい、また後悔するのだ。

 フリーフォールには初めて乗った。妻の妹が、私がこういうことに弱いことを知っていて、今度一緒に乗ろうなどと言っている。しかし、こちとら、ちゃんと練習してしまったのだよ。やってみたら、意外に一瞬で済んでしまい、物足りない位だ。ただ、ちょっと胃の部分が気持ち悪くなってしまった。無重力とはあんなものなわけだから、これでは宇宙船に乗れないわけである。

 「風人」に挑戦する筆者。決死の思いで紐を引いた後だが、意外に気持ちがよく、またやってみようなんて莫迦なことを考えているのが、わかるだろうか。

 で、今回は調子に乗って、「風人(これが前述した、たった一つの直接対価がいるアトラクションである。2000円。ただし、次からは1800円にしてくれる)」までやってしまった。これはつまり、ロープで吊るされて後ろに引っ張られ、留め金を外す(合図とともに自分で外すのだ)と巨大なブランコ状態になるという、まあ、アイディアは面白いものである。しかし、最初に引き上げられた時はまたまた自分の莫迦さ加減を呪ったものだ。係員があんなに小さく見えるとは――。
 だが、降りる方法が一つしかないのも、また事実である。覚悟を決めた私は、1、2、3の合図とともに潔く紐を引いた。結果は――。
 意外に気持ちが良かったといっておく。風が体に当たって心地いいし、そんなにスピードも出ないのだ。今度行ったら、またやってもいい。なにしろ1800円だからな。しかしこの調子で行くと、そのうちバンジー・ジャンプや後楽園ゆうえんちのタワーハッカーまでやってしまうのだろうか。自分の行く末が案じられてならない。いつまでも心臓が持つとは限らないからなあ。


 「風人」の証明書。これを持っていくと、次回から1800円にしてくれる。

 ところで――。
 結局、今回のサマーランドで一番恐かった乗り物は、何と言っても「観覧車」であった。建造してからだいぶ時間が経っており、風が吹くとユラユラする。私は化学の教員なので、金属疲労のことが頭を離れない。ジェット・コースターなどは走り出したらあっという間だが、観覧車は15分も掛かるのだ。その間狭い密室に閉じ込められて、逃げ場もない。これこそ本当の恐怖だった。あの恐さに比べたら、フリーフォールなんて屁である。しかしまた、乗ってしまうに違いない。