これは、SFマガジン1997年10月号の「てれぽーと」欄に掲載された、現在の私のSFに関する想いです。この見解が正しいかどうかだけでなく、そもそも本当にSFは冬なのか、だとすればその理由は何なのか、ぜひみなさんも考えて見て下さい。もしもまだ、あなたがSFを愛していただけるのならば……。拝啓 SFマガジン様
7月号の誌面を拝見して、筆(ワープロ)を取る気になりました。現在、緊急フォーラムやてれぽーと欄を賑わしている話題についてであります。と申しましても、実はその発端となった日経の記事とかそのようなことではありません。現在のSF界(特にSFマガジン)について、率直に思う事であります。
SFマガジンへのお願いです。そろそろ、SFコンテストを再開していただけないでしょうか。
私は決して真面目なファンではありません。SFファンであり続けることに真面目も不真面目もあるまいとも思うのですが、要するにここのところファンダムからは遠ざかり、貴誌も毎月買うわけではなく、読書量も一頃よりはずっと減ってしまっている、と申せば充分かと思います。最近こそインターネットのおかげで少々この世界に戻って参りましたが、とにかく、いつ如何なる時でもSFを愛し、それとともに生きて来た方々にはちゃんちゃらおかしいと思われるのを覚悟の上で、あえて書かせていただきます。
7月号のてれぽーと欄にあった、宮本英雄さんとおっしゃる方のご意見の通りだと思います。現在のSFに望まれることは、有力な新人の発掘と、それを目指すファンに開かれた入り口です。そしてそれは、「エヴァンゲリオン特集」を組み、それに対して「もうそろそろお別れする頃」という投書(あれには、恋人への別れの言葉のような切なさがありました)があった時、「あくまで本誌は小説の雑誌」と言い切る貴誌こそがやるべきことです。このようなこと、SFマガジンが先頭を切らずして、誰がやるのでしょう。
私はSFマガジンは、常に日本の活字SFを支える中心点の一つだと思っていました。大袈裟に言えば、「日本のSFの現状」(特に活字SFのそれ)とは「SFマガジンの現状」に他なりません。なんとなれば、雑誌はその時点でのジャンルの動きをリアルタイムで反映するからです。特に現在は、書店で安定して買えるSF雑誌は貴誌のみのようですから、なおさら如実にこれを感じます。
したがって、本当にSFが好きで、あくまでこのジャンルでやっていこうという新人候補がいた場合、まず、SFマガジンがそれに対する新人賞を開いてくれないことには、どうしようもありません。今現在そのようなことを思っているファンは、一体どうすればいいのでしょう。コバルトやオール読物でデヴューして、それからSFマガジンにくればいいのでしょうか。奇想天外新人賞もSFアドベンチャーの同人誌紹介コーナーもなき今、このままではSFは有力な新人を失いはしませんか。
もちろんこれは、甘ったれだといわれるかも知れません。私の友人にも、同人誌に発表した小説が認められてデヴューし、今では立派にプロになった者もいます。また、本当にいい作品が書けたという自信があれば、コンテストなんか関係なく、編集部に持ち込めばいいのでしょう。しかしその考え方が正しいとすれば、そもそもすべての新人賞が不必要になります。また、神林さんにしても大原さんにしても、今のSF界を支えている人達は、貴誌がSFコンテストで発掘した人達ではありませんか。
数年前、SFコンテストの中止の記事を見た時、私は我々アマチュアのプロ志望予備軍が、貴誌の審査員の方々を怒らせてしまったのだと思いました。すなわち、投稿される作品の余りのレベルの低さに、もう嫌になってしまわれた、我々は見捨てられたのだと。
もちろんこれは、投稿している側の責任です。SFマガジンはあくまで商業誌ですから、採算の合わない行為を無期限に続けるわけにはいきません。レベルの低いスラッシュ・パイルの山に、いつまでも付き合えないというのは当然です。自分自身もその中の一人であったわけですから、それを棚に上げてこんなことをいうのは、厚顔無恥な業といわざるを得ません。
しかしです。本当にこのままでよろしいのですか。「SF冬の時代」の原因の一つは、有力な新人がSFと別のところでデヴューしてしまうこと。また、私のように基本的にSF以外の所では生きられない人間が、この世界では一応「閉め出されている」ということ。新しくSFファンになった人達が、さて自分も作家を目指そうかと思った時に、この世界の内部に新人賞らしき物が見つからないということ。これらもまた、大きな原因であるとは考えられませんか?
ファンは常に他愛もない夢を見ています。いつか自分も、小松さんや星さんのような小説が書けるかも知れない。そしてそのためには、先人のいい作品をたくさん読まねばならない。SFが好きだから、面白いから、だから読む。それもまた大きな理由ではありますが、私などはいつかこの人達の仲間になりたいという夢を持っているからこそ、読むのです。そして、私にはSFしかありません。
このようなことを書きながら、コンテストが再開した時に自分自身が投稿出来るという自信はまったくありません。コンテストの中止とともに一度は諦めてしまった(何と言う情けないこと)ために、数年のブランクが出来てしまい、文章の書き方すら忘れてしまったらしいのです。しかし、私は駄目でも必ず他に素晴らしい人がいると思います。SFが好きで、力もありながら、ただどうすればいいのかわからないという人達が――。
長々と勝手なことを申し上げました。ただ私は、この「氷河期」と呼ばれる時代が、どうも貴誌のコンテストの中止と同時期にやってきたような気がして仕方がないのです。そこで、拙い意見をまとめてみました。もしも何かの参考になれば幸いです。今後のSFマガジンと、何よりもSF全体の発展(再興?)をお祈りいたします。
宇宙暦29年6月12日