あるコレクターの告白




 申し訳ありません。いつかはこんなことになるのではないかと思ったのですが、ついやめられませんでした。お金がないのに何かを集めようと思うと、こんな方法しか考えつかなかったのです。結果としていろいろな人達に迷惑をかけることになってしまい、大変に悪いと思っています。
 世間の人達は、私のことを変な奴だといいます。私も自分の趣味が変わっていることは知っているし、だから始めのうちはこっそりとあちらこちらから集めていたのですが、そのうちすぐに資金がなくなってしまいました。だから悪いこととは知りながら、こうして夜な夜な泥棒を働いていたのです。お宅はちょうど千人目の「獲物」ということになるのですが、こうしてつかまってしまったからには、もう悪いことはいたしません。だから許していただけませんか。せめて、故郷の両親に知らせるのだけはやめて欲しいのです。二人が知ったらどんなに悲しむことか――そうですか。ありがとうございます。その代わり、何もかも正直にいいますから。
 私は小さいころから一人で遊ぶのが好きな子供でした。両親はちゃんとした家の出なのですが、少々私を甘やかしすぎたといっています。幸いなことに体は丈夫なのであまり病気はしませんでしたが、ただあまり外に出るのが好きでなかったので、だいぶ太っていました。それで近所の子供達にはよくいじめられるし、そのためにこんな趣味を持つことになったのかも知れません。私は小さいころから強くなることにあこがれていました。でも、そんなことはとても出来そうになかったので、何かを集めたりそれを分類して飾ったりすることばかりに熱中していたのです。
 だからある日のこと、両親が、
 「おまえも何か習ってみるか」
と言って近所の剣道場にやってくれたときは、とてもうれしかったと記憶しています。父も昔は少し刀を振り回す練習をしたそうですが、あまり強くはなれなかったので、私に期待をかけたのでしょう。まあ、そんなに才能があった方だとは思えませんが、それでも持ち前の凝り性のためか、人より多少は上達が早かったようです。でも、気の弱い私にはあまり向いていることでもなく、適当な所で止めてしまいました。
 それからしばらく経つと、今度は父が突然、
 「出家をしろ」
と言い出しました。私が何をやってもぐずなので、きっと坊主にでもなる以外に食べていくのは無理だと思ったのでしょう。今とちがって、そのころの坊主は割りと暮らしやすかったのですよ。
 でも、ここでもまた私は、つらい修行がすぐに嫌になりました。だいたい寺ではみんなが悟り切っているなんてのはまったくの嘘ですね。私は朝から晩までいじめられていました。きっと、いじめやすい対象だったのでしょう。それが嫌で、私はすぐに寺を逃げ出しました。
 それからはあなたも御存じの通りです。私は昼間外に出るのは好みませんので、こっそりと夜に隠れ処を出ては、こうして強盗みたいなことをやっていたのです。昔やってた剣術のため、これは割りと楽でした。でも、さすがに人に顔を見られるのだけは嫌です。それでこんな覆面をしているのですが、覆面というのは人格も変えますね。何か自分が強くなったような気がしますよ。
 ええそうです。それで刀を集めだしたのです。盗んだ刀は隠れ処に飾ってながめています。いいものですね。自分のコレクションを眺めている時が一番楽しいですよ、誰にも邪魔されないし。でも、結局はみんな返さなくてはいけないんだろうなあ。
 え、それではこのまま逃がしてくれるのですか。なんだ、そうじゃないのか。わかったわかりましたよ。こうなったのも何かの縁なんでしょう。お宅のいうことなら聞きます。ああ、その「お宅」っていうのを止めろというんですか。すみません、つい口癖で。「オタク」ねえ。やっぱり変かなあ。
 そういうことならお宅……ではない、あなたの名前を聞かせて下さい。へええ、かっこいいですね。牛若丸というんですか。私ですか。鎌倉の武蔵坊、武蔵坊弁慶といいます。今後ともよろしく。





図書室に戻る