偽札
「あれ、何か固いものにシャベルが当たっとる」
二人組みの年上のほうが言った。
「変やなあ、こんなところに何が埋まってるんやろ」
「よし、とにかく掘ってみい。どっちにしても早くやってしまわんと、誰か来るで」
二人はシャベルを持ち上げると、再び一心不乱に穴を掘り始めた。彼らのそばには大きな木の箱が置いてあるが、これこそが彼らが穴を掘っている理由、つまりこれをここに埋めて隠そうと言うのである。
「だけどさ、兄貴」
「何だよ」
「こんなに簡単に行くとは思わなかったな」
「そうだな」
「案外ああいった会社の警備ってのはいいかげんなものやわな」
「そうやな」
この二人はまあどちらかといえば誉められた者ではなく、はっきり言えば泥棒である。今もとある会社に忍びこんで金庫を破り、この木の箱の中に盗んだ金を入れて持ってきたところなのだ。いずれ明日になれば事件は発覚するだろうし、だとすればこの金をすぐに使うのは危険というものだ。だからこうして車で山の中に運びこみ、穴に埋めてから一、二年後に掘り出そうということになったのである。
「ありゃりゃ、こりゃわてらが担いで来たんと同じぐらいの箱やな」
「ふうん、誰が埋めたんやろ」
「とにかく開けてみよ」
「それがええわ」
シャベルを端に突っ込んでこじってみる。箱は案外簡単に開いた。
「ひゃっ、こりゃすごいわ」
「ほんとや、わいらが持って来たのよりずっとたくさん入っとるわ」
驚いたことに、箱の中には一万円札がぎっしり詰まっていたのである。
「どうする、兄貴」
「どうするもこうするもないわ、これでわしら、二倍ももうかったんやないか。とにかく引っぱり出せ。この札なら番号もちがっとるし、安全に使えるわ。こっちのはここに埋めといて、これもあとで取りにこよ」
「なあるほど」
それから二人はさっさと作業を済ませ、意気揚々と山を降りた。
「で、何で捕まったんだ、そいつら」
「ああ、掘った札が偽札だったからさ。得意になって使ってるうちに、すぐに足がついたらしい」
「ふうん、間抜けだなあ。でも、今度はその偽札を作った奴が問題だな」
「それがだね。科学者による年代測定で変なことがわかったらしい」
「なんだい」
「その偽札の箱ね、どう考えても五千年以上前の物だというんだ。いったい、どこの誰が何のためにそんなものを五千年前に作ったんだい。それに……どうして一万円札のことがわかったんだろう」