侵略者はペンギン
酒を飲んでしたたかに酔った帰り道、公園の薄暗がりの中で一匹のペンギンに会った。
「やあ」
試しに声をかけてみると、相手も、
「今晩は」
と答えてきた。
「こんなところで何をやっているんだ。動物園からでも逃げてきたのか」
酔いのせいか、ペンギンが口を聞くことに寛容になっていたのかも知れない。
「いやあ、別にそういうわけじゃありませんよ」
「じゃあ、何をやっているんだ。もう十二時近いじゃないか。こんな時間に公園をうろつくなんて、怪しいぞ」
「はあ、それは充分にわかっているのですが」
ペンギンの年令なぞ見てもわかるすべもないが、話し方からいって中年に差しかかったというところであろう。
「ちっともわかってない。俺だからまあいいかも知れないが、これが警官だったら面倒なことになる。だいたい鳥は夜目が効かないはずじゃないか。あれ、そういえば梟は夜でも見えるんだった。ペンギンもそうなのかな」
独りごとを言っているうちに、ペンギンはすたすたと行ってしまおうとした。
「おおい、ちょっと待て」
足がもつれてうまく追いかけられない。それでも相手が足が短いのが幸いして、なんとか追いつくことが出来た。
「まあ、そう急がなくたっていいじゃあないか。まだ俺の質問には答えてもらってない」
ペンギンは迷惑そうに頭を振る(それは難しいかも知れない。とにかく、いかにもそのように見える動作をしたということだ)と、しぶしぶと答えた。
「それじゃいいますがね。明日から私達がこの街に住もうと思って、下調べに来ただけですよ」
「へ、何だって」
「そういうわけだから、黙って出ていって下さいね」
ペンギンは、今度はとても追いつけないようなスピードで駆けだした。後を見送りながら思ったことだが、今年は涼しい夏が来そうだとは思わないかな。