バッハのフランス組曲第一番ニ短調
アルマンド


 まず何はさておき、下のどれかの音色でこの曲を聴いて見て下さい(MIDIの設定が出来ていれば、ですが)。バッハの作曲したクラヴィーア用の「フランス組曲」と呼ばれる物の第一番ニ短調のアルマンドです。ロックに詳しい方ならば、EL&Pの「ナイフ・エッジ」の中間部、キース・エマーソンのオルガン・ソロで聴かれる印象的なバロック風のメロディとして記憶されているかも知れません。
 バッハの時代のクラヴィーア(鍵盤楽器)といえば、まだピアノのことではありません。あくまで、オルガン、チェンバロ、クラヴィコードが中心であり、当然このアルマンドもこれらの楽器(恐らくはチェンバロ)で弾かれる事を前提としていたはずです。しかしながら、現在の室内楽用の鍵盤楽器がピアノ中心に移ってしまったため、レコード(古い言い方ですね)でも、よくピアノで演奏されているようです。
 ここで面白いのは、ではこの曲をピアノで弾くと駄目なのかと言うと、そうではないことです。ウェンディ・カーロスの「スイッチト・オン・バッハ」の例を見てもわかる通り、バッハのポリフォニック音楽は実に様々な楽器を受け付けます。もちろんそれがチェンバロで弾かれた時とシンセサイザーで弾かれた時は、その印象はかなり違ったものになりますが、音楽の一番大切な部分は崩れません。ショパンの小曲などは、ピアノ以外の楽器で弾かれると何か大切なものを失いますし、だからこそ逆にピアノの魅力を最大限に引き出したのだとも言えますが、バッハはこの組曲をそういうやり方で作曲しなかったのです。
 そこで、このアルマンドを、様々な鍵盤楽器で聴いてみようというのが、このコーナーの趣旨です。鍵盤楽器は古来から様々なヴァリエーションを産み出し、更に今世紀に入ってから電子工学の発達で飛躍的な進歩を遂げました。ここにはその中からクラシック系の楽器から4つ、ポピュラー系の音楽で主に使われるものから5つを選んで、それぞれの楽器で同じアルマンドを聴き比べられるようになっています。あなたのGM音源の音色のヴァリエーションをお楽しみ下さい。


クラシック系の楽器

    ピアノ

       現在ピアノ教室等ではこの形で教えられると思われるもの。したがって一般的に聴かれるが、バッハが本来期待したものではないはずである。現代人にとっては、もっとも耳なれた楽器の一つ。

    ハープシコード

       本来バッハが思っていたのは、この演奏のはずである。きらびやかな音で、古典的。ただし、クラヴィコードで弾かれる場合も想定していただろうから、必ずしも絶対ではない。クラヴィコードは現代では、下にあるクラヴィネットがその本質を備えている。

    オルガン

       西洋で「オルガン」と行った場合は、普通日本で「パイプ・オルガン」と呼んでいるものを指すらしい。バッハの時代には教会音楽などで盛んに使われていた。ただ、この曲をオルガンで弾いたかどうかはよくわからない。電子オルガンと聴き比べると面白い。

    チェレスタ

       この楽器の発明はピアノよりも新しい。チャイコフスキーの「くるみ割り人形」やバルトークの室内楽などに使われている。



ポピュラー系の楽器

    ホンキイトンク・ピアノ

       西部劇に出てくる調律の狂ったピアノ。ラグタイムやジャズには向いているが、クラシックではほとんど使われない。

    電気ピアノ

       もともとは携帯性を重要視したものが、独自の音色のため、ロックやジャズに使われるようになったもの。普通のピアノよりも冷たいが澄んだ音色がする。これは発音源に弦ではなく板を使っているため、となりとの共振が起きないためである。

    電子オルガン

       電子オルガンには二通りの行き方があった。あくまでオルガンの音を目指したもの、そして、他の楽器の音色とヴァリエーションを目指したもの(エレクトーンなどはこの代表と言える)である。GM音源でのこの音は「ドローバー・オルガン」と呼ばれるが、本当はもっとヴァリエーションがある。

    クラヴィネット

       クラヴィコードにマイクを付けたもの。したがって音はスピーカーから出る事を前提とするため、やや歪んでいる。ギターに鍵盤を付けたような使われ方をした。しかし、バッハの曲も充分に演奏出来ることがわかる。

    シンセサイザー

       当然ながら、「これがシンセサイザーの音」というようなものは、本来存在しない。ここでは、ノコギリ波と矩形波、ベース系の音を使ってみた。バッハ自身はこのような楽器の出現をまったく予想しなかっただろう。


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