ピアノを弾き出したのは高校3年の時だと思う。それまでは、そもそも楽器という物が余り好きではなく、五線譜を読んで音楽が再生出来る人なんてのは、頭がどこかおかしいのだと思っていた。
ただ、家にあった妹のエレクトーンを趣味で叩いてはいた。それだって立派なものではないかという人もいるかも知れないが、要するに好きなメロディを右手で弾いて、左手はコードを押しっぱなしにしていただけ。それでも鍵盤に慣れる意味くらいはあったのだろうか。
では、なんでピアノを弾き始めたのかと言うと、まあ、こんな風にプログレ系のロックを扱ったホームページをやっていることからもわかる通り、キース・エマーソンのせいである。「展覧会の絵」が、ピアノのグレードで言えば最高レベル、当時の全音楽譜の青帯に相当すると知って、つい遠大な計画を立ててしまった。それが高3の時という訳。それからハノンやチェルニーを練習し始め、大学に行ってから4年ばかりレッスンにも通った(!)のだが――。20年以上たった今、結局計画は全然達成出来ていない。もともとそんなに勤勉な性質ではないためである。せいぜい、職場の文化祭や子供の保育園のクリスマス会での演奏がいいところだ。
写真のピアノは、叔母にゆずってもらったものである。女性向きの赤い色(写真ではわかりにくいが)はそのためだ。ピアノは現在のコンピューターに似ている。回りを見て買ったはいいが、使いこなせずそのまま。飾り物の家具になる分はコンピューターよりも少しはましか。しかし、ずっと場所をとる。こういうものは、本当に欲しい時はいらない人から貰ってしまった方がいい。
ピアノの利点。一人で出来ること。音楽のいろいろな構造がわかること。欠点はというと、夜中に突然練習するには音が大きすぎるというところか。家を新築する時は、結局このために防音室まで作ってしまったし(それでもまだ、不完全。何ということ!)。
一人で出来る、音楽の構造がわかる楽器という利点は、自分にとって「作曲」という道につながった。なに、どうせ自分はいくら練習したって今更プロには勝てやしないのだ。だったら、一つくらい自分にしか演奏出来ない曲があってもいいじゃないか。このホームページに上がっているMIDIデータの曲は、そういった過程から生まれたものである。実際には、ピアノがピアノであることを主張するという意味での「ピアノ曲」を作るのはとても難しく、結局他の楽器を組み合わせていく編曲にする方がいいものが出来るのだが、それはそれで文化祭でのにわかバンドではとても役に立った。
ピアノは万能の楽器かといわれれば、基本的にはその通りだと思う。もちろん、真の意味での万能の楽器など存在しないのだが、ただ、その音が使えるジャンルが広いという点では他に類を見ない。出自は明らかにクラシック、しかし、ジャズやロック、ポピュラー、民族音楽の伴奏くらいならある程度は出来る。純邦楽においても、琴の代わりを一応やってのける洋楽器は、ピアノとハープくらいだろう。だからこそ、なおさらピアノ専用の曲を作るのは難しい。そんなことがちゃんと出来るのはショパン以外に何人いるのだろう。
まあ、例えば最初に選んだ楽器が例えばドラムスとかだったら、これは基本的には何らかの仲間が必要になってきただろう。協調性のない私には長続きしそうもない。それに、年を取って体力が衰えても、鍵盤を叩くことはそこそこ出来そうだ。ピアノを選んでおいて良かったとは思う。例えバンドで演奏する時に、はじっこの方に座ることになったとしても――。