楽器に関する覚え書き

エレクトーン――Electone


 エレクトーンというのはヤマハの商標である。同様の電子オルガンをカワイはドリマトーン、ビクターはビクトロンと呼ぶ。ハモンド社はもちろんハモンド・オルガンである。

 このエレクトーンは実家に置いてある。もともとは妹の物だったのを、勝手に弾いていたのだ。オートリズムがついているので、左手と足でコードを押しっぱなしでもそこそこの感じが出る。妹が使っていた教則本を見て、適当に弾いてみたら結構さまになったものだ。もちろん、難しい曲も存在するのだろうが、そういったものには手を出さなかった。
 結局、この手の電子オルガンはピアノともオルガンとも違う楽器だと思う。音がどうとかいうだけでなく、演奏法が根本的に異なっているのだ。最大の特徴は左足だけで演奏する足鍵盤で、これにベースが振り分けてあるため、ピアノよりもむしろ易しい。このフット・ベースと左手のコードでリズムを付ければ、大抵の曲はこなせてしまう。ただ、どうもそのためにアレンジが安直になってしまう傾向があり、初等的な教則本の楽譜はメロディしか書いてなく、あとはリズム・パターンとコードしか記載されていなかった。それで済んでしまうのである。
 したがって、途中からこれで本格的なクラシック・ピアノを練習しようとしたら、大変に苦労した。鍵盤がピアノの88鍵に対してどうしても不足するし、キーの押し具合もペダルの有無も全然違う。それでも10年くらいそれでやっていたのだから、ひどいものである。

 話が後先になったが、このエレクトーンの機種はB−6、私が中学3年の時に家に現れたもので、当時で20万円とかしたと思う。当然音はただの電子合成、MIDIなどは、まだその存在すらない。最近のエレクトーンはこれよりもずっと安く、AWMサンプリング音源の採用で音もずっと本物に近くなった。もちろん、MIDI端子も搭載されている。こうなるとシンセサイザーとあまり変わらなくなって来るわけで、ただ音色合成の機能がない所が唯一の違いか。いや、波形をいじったりしなくても、トーン・レバーをいろいろ組み合わせればさまざまな音が出せるしなあ。アンプからスピーカーまでが一体化している点は、むしろ便利かも知れないぞ。だいたい最近のシンセサイザーで本当に自分で音を合成している人が、どれだけいるんだろう。シンセサイザーを2段に重ねて置いて、MIDIの足鍵盤をつなげばまったく変わらないのである。外に持ち出す必要がないのであれば、無理してシンセサイザーなど買わなくても、電子オルガンで充分なのかも知れない。
 しかし、それでも今後自分がこの手の電子オルガンを買うことは、まずないだろうと思う。もしあっても、ドローバーのついている機種になるだろう。他の楽器の代用をするような電子オルガンは、どうも中途半端な気がする。この楽器のために作曲したような曲が出てくればまた違うのだろうが、現段階では聞いたことがない。多分、当分の間は電子オルガンは「一人で演奏出来る楽団」の役割を担うのだろう。もちろん、それはそれで大切なことなのであるが――。

宇宙暦28年12月24日)


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