SACDに未来はあるか


 正直に告白するが、私にはSA(スーパーオーディオ)CDと普通のCDの音の区別が付かない。マルチチャンネルなら後ろからも音が聞こえるのでなるほどと思うが、ステレオモードの場合は、出来のいいCDの音は決してSACDに比べて遜色はないのである。
 もちろん、持っているオーディオセットの性能もあるだろう。根本的に耳が悪いのだと言われれば反論はない。ただ、事実としてSACDの音がそんなに良いとは思えないということだ。

 ところで、LPがCDになった時、一番大きな違いはどこにあったのだろう。CDがマニアを抜かしてほとんどLPを駆逐した理由は、一体何だったのか。本当に「音が良かった」からなのだろうか。
 もちろん、そうではない。

 音質について言えば、そもそも「良い音」を定義するのは難しい。アナログ音源が未だに残っているのは、デジタル音源の音質に満足出来ない人がいるからなのは確かだが、逆にデジタルじゃないと駄目だという人もいるにはいる。
 ただ明らかに言えることは、こと雑音の軽減についてはCDが優れている。スクラッチノイズはまったくないし、傷にも強い。要するにLPの保守というのは埃や反りとの戦いだったわけで、CDはその点に関しては事実上LPを駆逐するだけの力はあったわけだ(ノイズのない音が嫌いだと言うような考え方は、この際除外する。そういうことなら、雑音を録音すればよい)。
 更にサイズの小ささは、家屋の狭い日本人には大変向いていたし、持ち運びにも便利である。もちろんこれは諸刃の刃で、ジャケットサイズの縮小は、そこに書かれている絵や写真も縮小してしまい、それが欠点になっていることは認める。ただし、これはどちらの部分が大きかったかと言えば、どう考えても小さい方が「便利」なのは言うまでもない。
 もう一つ、CDは連続演奏時間を80分まで延ばすことが出来たので、マイク・オールドフィールドの「アマロック」のような曲も可能にした。もともとこの容量は、ベートーヴェンの第9交響曲を入れるために作られたというが、70分以上を通しで演奏すると言うのは尋常ではないとしても、楽章の途中で盤を裏返す必要はとりあえずはなくなったわけだ。

 ということで、CDがLPに取って代わったのは、何も音が良かったというだけではない。もちろん、音質が異常に下がったりしては駄目だろうが、そうでなければ、MDやMP3などのように、明らかに音質は犠牲になっても、「手軽」や「便利」、「可搬性」、インターネットでの配信など、付加価値さえあれば普及はする。逆に言えば、実は「音質」や「画質」などが直線的に上がっただけでは、意外に苦戦しているのである。LDがVHSと共存しえたのは画質だけではなくAC−3による5.1チャンネルサラウンドやランダムアクセスを可能にしたからだし、LDがDVDに道を譲ったのもサイズの縮小(これは、レンタルを手軽にするという武器にもなった)や字幕の切り替え、メニューのトリックプレイなど、付加価値をつけたからである(ただし、画質の向上――といっても、ノイズの軽減だが――はやはり大きい)。

 さて、それではSACDの利点は何か。音質の点を一応抜かせば、CDに比べて明らかに異なるのは、演奏時間の拡大とマルチチャンネルによる5.1チャンネルサラウンドである。しかしよく考えてみれば、これはDVDオーディオでも実現可能だ。というよりも、DVDオーディオは画像表示機能を持つ分、SACDより優れているかも知れない。
 だとすると、DVDオーディオにない特徴が必要になる。考えられるのは、CDコンパチブルを可能にするハイブリッド機能だ。これなら、SACD再生機を持っていない人も、とりあえず中身を聴くことは出来る。ということは、SACDシングルモードしかないものは売れないことになる。実際、あれらはどのくらい売れているのだろうか。
 もう一つは、DVDオーディオの選曲が、テレビ画面を利用したメニュー機能を使用しないと大変に使いにくいことである。カーオーディオなどのように、片手で目を使わずに操作出来ないといけない場合、仮に超小型の液晶画面を付けたとしても、あまり解決にはならない。この辺りに、SACDの利点はないことはない。
 いずれにせよ、私の持っているSACD再生機は、DVDオーディオも再生出来るのだ。今のところ、持ち運びに便利なSACD再生機はない。だから、もしも同じソフトが両方で出ていれば、DVDオーディオを選ぶだろう。CDハイブリッドなら可搬性という利点はあるが、歌詞表示機能はやはり大きい。となれば、少なくとも我が家ではSACDはDVDオーディオに勝てない。

 SACDはメーカー主導で普及する可能性は確かにある。コピープロテクトがついているからだ。コピーコントロールCDよりは視聴者にとってもましなシステムらしいので、CDに取って代わるとすればその機能のためだろうが、これもDVDオーディオに勝てる要素とも思えない。

 そもそも一番大切なのは、音質ではない。ソフトの中身が何であるかである。それがあって、初めて高音質が生きてくるのだ。今のところ私の所には、SACDは6枚しかない。このうち一つはたまたまハイブリッドでこれしか無かったからで、あとは一応マルチチャンネルだから購入した。

 もしもSACDを普及させたいなら、まずはマルチチャンネルでいいソフトをたくさん出さなくてはならない。それも、DVDオーディオで出ないものを、だ。更に、ソニーは早急にSACDウォークマンを、サラウンド対応ヘッドフォンで発売する必要があろう。でなければ、このメディアも長続きはしまい。

 まあそれ以前に、CD屋の店員が、以外にDVDオーディオもCDも知らないのにびっくりする。不勉強と言うよりは、やはり認知度がその程度なのだろう。まだまだ道は遠そうである。

宇宙暦36年3月28日


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