蒲鉾の板絵


 小田原の蒲鉾店・鈴廣かまぼこ板絵コンクールに出そうかと思って書きました。本当は工作室に出すべきかも知れませんが、一応イラストということでこちらにしておきます。
 それにしても鈴廣のURLが「www.kamaboko.com」で板絵の方が「itae.jp」ってのは凄いな。社名を全然入れてないんだもん。

「水の中、光の底」

 自分の著書をそのまま題名にしてしまいました。黒漆(カシューですが)に螺鈿貼り、蒔絵を施してあります。
 この後の作品もそうなんですが、螺鈿や蒔絵は、本当は一度漆に埋め込んで、上から炭などで磨いて浮き出させるのが本式のようです。ただ、私が実際にそうしてみたら、均等に磨くのが難しく、螺鈿の端が擦り切れたりしてしまいました。炭でなくやすりを使っているのも不味いんでしょうが、要は力不足です。そこでインチキではありますが、マスキングテープを使用して擦り切れないようにし、蒔絵の方は後処理をしていません。だから、何だか盛り上がった感じが取れず、ぼこぼこしています。
 それはともかく、鯉の口の先にあるのは満月が水面に映った様子のつもりなんですが、銀色(アルミニウム粉)を使用したために判り難くなりましたね。金色(真鍮)でも良かったのかな。ただこちらは鯉の錦模様に使ったので、違う色にしたかったのです。どうでしょう。

「月下美人」

 上の作品で味を占め、更に取り組んでみた物。ただ、これは一度やり直してあります。
 上の鯉で気が付いたのは、螺鈿を黒の上にそのまま貼ってしまうと、どうも沈みがちというか、目立たなくなってしまうんです。これが螺鈿細工だけで出来ていればそれでもいいのでしょうが、蒔絵と組み合わせるとどうしてもそちらが浮き出してしまう。
 そこでまず板に白いカシューを掛け、更に螺鈿側には夜光塗料(私の知る限り、元の色が白くて光る色に青やオレンジがあるのはSpazstixだけです。ただ、光がやや暗い。シンロイヒの製品は明るくていいのですが、元の色が白くありません)を塗ってみました。暗い所で月光の下、月下美人の花が浮かび上がるようにしたかったのですが……。
 この、夜光塗料という奴、どしても顔料の粒子が粗くなります。それで螺鈿貼りをした後に黒漆を塗ったら、毛細管現象で下に染み込んでしまいました。更に、下地白の上に螺鈿を貼っても、特有の輝きが出ません。また、下地黒でSpazstixの夜光を使っても、暗くて見えないんです。
 ということで、これはあえなく失敗。全てやり直しという訳で夜光はあきらめ、黒下地にそのまま螺鈿を貼りました。
 ただここでもやはり問題は残っています。花のように構造が複雑な物の場合、本来なら螺鈿を花弁ごとに切って貼るべきなんでしょうが、これは手間が掛かる上に、失敗してしまいそうです。仕方なく一枚貼りとして、漆で上から線を入れました。これが磨きを掛けると段々透けてきて、螺鈿が見えてしまいます。やはり技術と根気無しにやっても上手くいかないもんなんですなあ。

 総合的にいって、蒲鉾板絵というか、螺鈿や蒔絵の細工は、写真ではよく伝わらないということです。やはりこれは「絵」ではなく「細工」なんですね。


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