レーザー光線に関する覚書


 レーザー光線が面白い。
 元々光物ひかりものは好きである。火を点ける様式のランプ、化学薬品による夜光(蛍光はさほどでもない。あれは色の一種と考えている)、発光ダイオードなど――ライトセーバーもその一環か。したがって、空中に一直線の光が走るレーザー光線には昔から憧れていた。

 左から、のハイブリッド・ポインター。これ以外に、ライトセーバー型とか幾つか衝動買いしている。
 本当のことを言えば、SF者としてのレーザーに対するイメージは、もちろん「光線銃」である。中学の頃、理学機器のカタログでルビーレーザーの発射装置を見た時は、あれは大人になったら絶対に買ってやろうと思っていた(事実、そのくらいの値段だった)。あれさえあれば、鉄の板に穴を空けるのも朝飯前、と勘違いしていた訳で、年が過ぎて大学で初めて実物を見た時は、随分がっかりしたものだ。要するに、(科学的な説明はあるにしても)ただの明るい光であり、別に何かを融かせるようなものではなかったのだから。
 もちろん、そんな殺人光線になるような危ない代物が普通に売られている筈もないから、これはどう考えても勘違いする方が悪い。ただ、SFアニメのビーム兵器のイメージ、あれはかなりの子供達の間に誤解を産んだと思うぞ。特に「8マン」に出て来た光線銃レーザーは、一億℃の熱を出すとか言ってなかったか?(宇宙空間にはコロイドが浮いてないので、戦闘中のビームも横からは見えない。任天堂の「光線銃SP」ではコマーシャルでビームが見えていたが、実物ではそんなもの出なかった。明らかに誇大広告である)

 さて、そんなレーザーも、いつしか安価で小型のポインターが手に入るようになった。一時は色々事故も起きたらしいが、今は法律も整備されている。要は、使い方さえちゃんとすれば良いのである(何もレーザーでなくとも、使い方次第に依っては人命にかかわる物など幾らでもある。だから私は、車の免許を取らない。運転に自信がないのである)。蚊取り線香などで煙を焚いておけば、普通の人でも美しいチンダル現象を楽しむことが出来るようになった訳だ。
 それで最初は赤色ポインター一つ手に入れただけで満足していたのが、そのうち緑色レーザーに出会うことになる。これは電力が低くても、非常に光線が見易く美しい。それを用いたレーザー光線銃の自作については、既に別の所に記載済みである。そして、また更にネットで調べるうち、どうも世の中には他の色のポインターも存在するらしいことが判ってきた。欲しい。

 と言う訳で、色々と紆余曲折はあったが、写真のように、ようやく五色のレーザー光線を手に入れることが出来た。実はこれら以外に、赤外線レーザーポインターなる代物もあるらしいが、特殊な発光物質に当てなければ見えないし、そもそも流石にこれは売っている所さえ見たことがない。そこで、取り敢えずは所有している色のレーザーについて、特性や見易さなどの比較を記しておく。まあ、個人的な自慢ではあるが、もしも他にこの分野に興味のある方がいらっしゃれば、購入のヒントになれば幸いです。ただし、くれぐれも無闇に発射したり、人の目を照らすことだけはしないように。またまた規制が厳しくなってはたまりませんから。

 写真は、左が薄めた牛乳、右が入浴剤(オレンジの香り。色もオレンジ系統)の入った水に照射したものである。本当は、硝酸銀を還元して作る銀コロイドが反射率もよく、チンダル現象も綺麗に出るのだが、これだけの為に硝酸銀を手に入れるのは面倒だった次第。どうかお許し下さい。

赤(650nm)

 もっとも一般的に知られており、比較的安価に手に入るレーザー。最初に広まったポインターは、当然これである。
 可視範囲の端の方にある為、結構見にくい。高校の化学実験でチンダル現象の観察に使うのも大抵この色なのだが、残念なことに多くの場合合成する水酸化鉄(III)のコロイドは茶色いので、赤では更に見づらくなるのである。牛乳なら何とか判別できるが、入浴剤では御覧の通りほとんど判らない。
 まあ、余り面白みはないが、取り敢えずは入門用、或いは普通の説明会などには充分な性能というところか。

橙(594nm)

 前述のように、これは非常に手に入りにくい。運良くシンクギークで売っていたので、円高のどさくさに紛れて購入した。それでも3万円弱はする。
 波長が赤から可視領域の中心に少しずれただけで、こんなにも見易いのかと思う程明るい。また、エネルギー順位が低い為、対象物の電子を励起させにくいらしく、素直に橙色が見える。入浴剤でも、辛うじて線が判る程度には明るい。値が張ることさえ目をつぶれば、ポインターとしての性能は高いと思う。

緑(532nm)

 これは最近では国産でも販売している。アマゾンで検索を掛ければ直ぐに見つかる筈である。可視領域の中心に位置するので、一番見易い。赤に比べればやや高いのが難だが、量産で大分値段もこなれてきたようだ。モジュールだけでも秋月電子などで買える為、別の所に書いた自作のレーザー光線銃はこれで作った。この辺りで、入浴剤でも見えるようになってくる。いわんや牛乳をやである。

青(430−490nm、何故表記に幅があるのかは不明)

 橙に次いで新しい色。国産では手に入らず、これもシンクギークで3万円弱(レーザーなんぞにそんなに使う金があるのか、と言われるだろうが、私は酒や賭け事はやらず、増してや風俗なんぞには怖くて行けないし、煙草も電子式のニコチンなしである為、維持費が安い)。明るい所では赤より見にくく、暗い所では見易くなる。これは人間の目の特性に因るものだ。その為ポインターとしての実用性に乏しいので、緑の方が広まったのだろう。
 この辺りの波長になってくると、次の紫についでエネルギー順位が高いので、入浴剤では違う色に見えるのが興味深い。これは、薬剤に含まれる蛍光物質のせいであろう。実際、蛍光・夜光系の塗料等に当てると、その「相手の」色で光る性質も少しは持つ。ただし青も一応は混じるので、やや判りにくい。その性質が一番よく現れるのは、最後の紫である。

紫(405nm)

 さて、これが実は一番面白い色なのだ。
 値段としては上の橙や青よりやや安いが、可視領域の端に位置するので、見易さの点でずっと劣る。更に、これは楽天市場のオークションで買った一番電力の低い物なので、普通に光線を見る分には青より更に見にくい。
 にもかかわらず、例えば蛍光塗料の入っている壁紙やワイシャツなどに照射すると、エネルギー順位の高さの為、電子をかなり励起させ易く、まるでブラックライトのように明るく輝かせるのである。写真で見れば一目瞭然、牛乳ではほとんど写真に写らないが、入浴剤では青に次いで明るく(青より暗いのは、電力の差の為だろう)、しかも本来の紫ではない光線が見える。更に、蛍光・夜光系の塗料を照らした場合、本来の色がさほど目立たないので、青色レーザーよりもずっと発光剤本来の色が出る。スクリーンなどを指す際なら、ポインターとしては充分実用的なのだ(チンダル現象は出にくいが、これも人間の目の特性で、暗い場所でなら赤より光線がよく見える。ただし、写真には写らないが)。
 この性質を利用すれば、例えば夜光塗料を塗った板などに、ペンのように絵を描くことが出来ることになる。当然、それは時間とともに次第に消えていくはかない作品だ。アニメーターが動画を描くのに匹敵する速さと判断力が必要だし、記録をしない限りは一種の舞台芸術のようになり、実際、そのような画家もいるそうである。私の画力ではとても無理なのが悔しい限りだ。

 という訳で、科学玩具としてチンダル現象や電子の励起発光などを観察してもいいし、説明会などで仕事に使うのも実用的である。強い光であるから、直接見詰めたり他人の方を照らしたりしないように気をつければ、楽しい道具になるのは間違いない。くれぐれも安全に注意して楽しんで下さい。

宇宙暦42年12月10日)


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