楽器に関する覚え書き

GM音源――General MIDI


 GM音源は、非常に重要である。少なくとも、このようにネットワーク上で音楽をやっている場合、人とのデータのやり取りは基本的にファイルに頼るしかないので、まがりなりにも同じ音構成でMIDIデータを演奏出来る音源は、何はさておき手に入れるべきだ。これがなければ、データを作る事も原則的には出来ないといっていい。
 ただ、逆に言えばそれだけの価値しかないのである。少なくとも、個人的には――。

 写真の音源は、箱の形をしている方がヤマハのMU5、コンピューター用のPCカードがローランドのSCP−55である。SCP−55の方はGSにも対応しているが、ヤマハの音源と合わせるため、GMの部分しか使わない。感想として、オーケストラ系の音はローランドの方が良く、ポピュラー系の楽器はヤマハが良いような気がする。いずれにせよ、どちらも5万円を切る製品であり、そんなに高い音源は買っていない。
 もともとMIDIは、単なる転送プロトコルの規格に過ぎなかった。二つの楽器間でデータをやり取りする際に、ケーブルの中を流れる信号についての取り決めしかなかったのだ。ただ実際には、コントロール・チェンジの番号と働きについては各メーカーが右へ習えをしたため(例えば、64番はダンパー・ペダル、7番は音量調整など)、そんなに困ることはなかった。そのうち標準MIDIというファイル保存の共通規格が出来、GMの登場で、ようやくでプログラム・チェンジ信号と楽器の対応が出来上がったのである。ここに至って、データのやり取りがある程度簡単に出来るようになったわけだ。
 問題は次の点である。機能が多い道具は、逆に一つひとつの性能が劣ってしまうこと。もう一つ、音源毎の共通性を出すためには、どうしても個性を犠牲にしなくてはならないこと。
 例えばオルガンである。GM規格は、プログラム・チェンジ16番から23番にオルガンを当てている。しかし、例えばロックンロール系のオルガンはこの中に三つしかないし、教会用のパイプ・オルガンに至っては一つだけだ。だが、考えてみればすぐわかる通り、ハモンド系のオルガンはもっと無数の音色が出るし、いわんやパイプ・オルガンに於いてをやである。ピアノからオーケストラ、幾つかの効果音まで含めて128の楽器しか扱えないため、どうしても個々の楽器に割当てられる音の数が限られてしまうのだ。
 だから本当は、そのオルガンの音ならオルガンの音の中で、ある程度自由に音色を作れるようにすべきなのかも知れない。実際、少し高級な音源はそう出来るらしいし、GS規格はGMを包含したままそれを可能にするために作られた。しかしこれにも問題がある。何となれば、これでは音源が代わるとデータの互換性が失われるからだ。そもそも共通のデータをやり取りするためには、音源製品が違っても同じ演奏が出来なくてはならない。そのためのGM規格なのだから。NIFTY−ServeのMIDIフォーラムに上がっているデータにも、「音源はこれこれ」と書いてあるのが多いが、これは苦肉の策というべきで、もしも音源を指定してしまうのなら、何もGMなんか使わなくてもよくなってしまう。もちろん、その辺の規格まですべて作る事も出来るが、それには大変な話し合いがいるだろうし、究極の姿としては音源が一種類あればいいことになるわけで、これはGMのジレンマである。
 だから、ファイル化されたMIDIデータを再現するにはなくてはならない存在ではあっても、コンサートに持っていって使う気には、どうもならないのである。そういう使い方をするのなら、SY77のようなもっといい楽器を持っている。GM音源は最低限の再生が出来れば、それでいい。

 しかしそうは言っても、この規格のおかげで自分のような素人でも、オーケストラの曲が編曲出来るようになったのは事実である。決まりきったプリセットの音には、逆に合成のわずらわしさがない。適切なプログラム・チェンジ信号を送れば、簡単に楽器の音が手に入る。それに、最近のシーケンサー・ソフトは最初からこの規格に対応しているから、一覧表からただ楽器の音色を選ぶだけでいいのだ。このため、納得のいくまで何度でもデータを直せるようになった。オーケストラの編曲が難しいのは、要するに聴きながらいじることが出来なかったからである。GMとコンピューターは、それを素人にも出来るようにしてくれた。そのことの意義は、非常に大きいと思う。

宇宙暦29年10月29日)


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