楽器に関する覚え書き

リコーダー――recorder


 リコーダー――縦笛。小学校で音楽の時間に使うあれである。

 日本語で笛というのは、いわゆる木管のことだ。古語の「笛」は管楽器の総称で、弦楽器の総称である「琴」に対応している。ただ、金管に相当する楽器が、山伏のほら貝しかないので、笛と言えば一般には木管のことである。ちなみに金管は「喇叭」。試しに和英辞典で調べてみたら、英語には「笛」を総称する単語はないらしい(「木管楽器」は、文字通り"wood wind"という)。コンサイスでは"flute"となっているが、PODで調べてみると、これは一応フルートのことである。よく言われることだが、現在木管は必ずしも木で作られるとは限らない。要するに、楽器そのものの構造で気柱を振動させるのが木管、演奏者の唇を振動させて増幅するのが金管なのだが、笛、喇叭という便利な用語を持っていない言語では、もともとの材料を名称にするしかないのである。
 で、この分類に従えば、尺八や笙などは立派な木管のはずなのだが、あまり笛とはいわれていないみたいだ。普通、笛と言えば、篠笛能管、龍笛などの横笛である。クラリネット、サクソフォン(これは喇叭ではない)なども縦笛に所属することになるが、これらにも、あまり「笛」というイメージがない。結局、笛という言葉から来る印象が、どちらかというと倍音の少ない、高音の楽器を差しているからなのだろう。

 さて、リコーダーである。先にも書いた通り、小学校で初めて使ったが、これは高学年になってからのことで、最初はハーモニカであった。中学の音楽でも器楽はリコーダーである。結局、ハーモニカとリコーダーは、持ち運びに便利で値段も手頃だからなのだろう。
 ただそのおかげで、どうもこの二つの楽器には何かの代用というイメージが付きまとう。本当はもっと別の楽器でやるべき曲を、編曲して置き換えたという気がするのだ。だから、あまり「高級な」印象がない。音を出すのがそもそも難しいフルートなどと違い、リコーダーは歌口から軽く息を吹いてやれば、誰でも一応の音が出るのも、何か軽いイメージを与えているのだろう(実際、シェークスピアもなどがそう書いているらしい)。
 本当はハーモニカもリコーダーも、曲を選びさえすれば豊かな表現力を有する。ハーモニカはブルース系(何故かこのジャンルでは、ハープと呼ばれている)では欠かせない楽器だ。これも一つくらいは手に入れておきたい。ではリコーダーはどうかというと、クラシック系ではバロック音楽、ロック系ではこれまたマイク・オールドフィールドである。
 実際、「オマドーン」以降しばらくの間、レスリー・ペニングと組んだ曲では、リコーダーは非常に重要な楽器だった。イギリス民謡を基調にした曲では、「イン・ダルシ・ジュビロ」、「ポーツマス」、「リコーダー・ロンド」、「カッコウ・ソング」など、一時はギターと並ぶリード楽器として使われている。渋谷公会堂での日本公演では、「タウラスII」のバグパイプの代りを務めたのもリコーダーである。

 写真の楽器は、上の2本がソプラノ、下がアルトである。ソプラノの上の奴が木で、あとはプラスチックだ。木管は材料で音が変わることはあまりなく、形こそが重要なので、木でもプラスチックでも自分が使う限りは同じである。ただ、木の楽器は歌口の付け根が抜き差ししやすいので、調律がやりやすい。これは歌口の頂点に傷が付いていて、音には何の関係もないのだが、それで二千円負けてもらった。
 実は、初めて木の楽器を買った時、運指を間違えて覚えていたのには参った。「F」の音が、常識と異なるのである。普通、指を右手の小指から順に開いていった場合、Fは中指までを完全に離すものだと思うが、不思議なことに小指と薬指は穴を塞がねばならない。どうしてこうなったのかは謎である。

 ところで、今年中学に入った姪が、リコーダー・クラブに入部したそうである。担当はバス・リコーダー。写真で見る限りは、かなり大きめの楽器だ。先にも書いた通り、笛には高音部の楽器というイメージがあり、特にリコーダーにバスがあるとは意外だった。どんな音が出るんだろう。今度聴かせてもらおう。

宇宙暦29年12月12日)


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