木枯し紋次郎の長脇差どす

真剣







 こんなこと書いた舌の根も乾かないうちに、またまた日本刀の真剣に手を出してしまいました。NPSカットラリーで16万円という安さと、写真ではそんなに錆びていたりも見えず、現代刀だからある程度はしっかりしているだろうし、拵えも綺麗そうだったからです。
 で、届いた品を見てびっくり。かなりの美品で、直す所がほとんどありません。柄の糸が接着剤みたいなもので汚れていたのと、刀身に金肌拭いと磨きが掛かっていなかったくらい。柄糸は既に巻く練習もしてあるし、磨き棒も持っています。ちょっと刃が甘かったのでタッチアップ用の砥石でざら目を入れたらすぐ切れるようになったので、早速拭いを入れて残りの作業に掛かりました。

 さて、実は元々の目的は、題名にもある通り、笹沢佐保さんの「木枯し紋次郎」の長脇差を作ること。これ、上記のNPSカットラリーで模造刀を売っていたのですが、現在は品切れの様子。しかも、模造刀は伊勢千子村正だけでいいやと思っていたので、手頃な価格の真剣があったら作ってみたかったのです。
 一応刀身についてはこちらに書いておきました。【上工の列】大業物・関脇の三輪兼友さんの作です。委託品とはいえ、何でこんなに安いんだろう。
 それで、木枯し紋次郎の長脇差についてきちんと判明しているのは次の通りです。

    小説に拠るもの

    1.  島流しに遭う前に持っていた物。「木枯しの音に消えた」で、斬り合いに使った、とある。島流しになった時に取り上げられたものと思われる。
    2.  「赦免花は散った」で島抜けをする際、手に入れた刀。芝居に使う小道具だが、一応本物らしい。だが、そんなにいい品とは思えず。
    3.  その後は、「錆朱色の鞘を鉄環と鉄こじりで固めた半太刀拵え」の長脇差を差して旅をしている。かなりの値打ち物に見えるらしいので、上の脇差とは別物だろう。入手経路は不明。
    4.  その刀身が「一里塚に風を断つ」で折れ、北村長光から銘のある刀を入手。
    5.  同じ刀身かどうか判らないが、「雷神が二度吠えた」でまたまた折れ、ここで志津三郎兼氏の名刀を入手。
    6.  「帰って来た木枯し紋次郎」で刀身がぼろぼろになっており、鞘はそのままだが刀身は何度も替えられたことが書いてある。したがって、この時のぼろ刀が上述の志津三郎兼氏かどうかは不明。その後の旅ではちゃんと斬り合いをしているので、新しくしたものと思われる。

    中村敦夫の映像に拠るもの

    1.  「木枯しの音に消えた」で過去のシーンが流れ、既に錆朱色の鞘が見える。島流しに会ったという設定はその後もしばしば語られるので、この刀がその時取り上げられていない筈もなく、経緯は不明。もしかすると島流しに会う前に何処かに隠したか、「木枯しの音に消えた」は島抜けの後の出来事なのか。ただし小説では島に居る間も楊枝を咥えており、これは「木枯しの音に消えた」の時からの癖なので、やはり妙ではある。(因みに、映像では島流しに遭ったという事実のみ語られ、その間の楊枝については描写が無い)。
    2.  小説と同じく、「一里塚に風を断つ」で折れており、同じく北村直光を訪ねる。ところがこの時の直光の刀は最後に折れてしまっているので、その後は別の所で手に入れたらしい。
    3.  「雷神が二度吠えた」では、小説と同じく志津三郎兼氏を手に入れる。その後、映画「帰って来た木枯し紋次郎」(同題の小説とは話が違うが、小説版はこの話の続きになっている)まで、折れたり替えたりの描写は無い。

 他にも映画や単発のドラマはありますが、一応上の二つを正典としておきます。だとすれば、一番素性が明確で実在する刀と言えば、名刀・志津三郎兼氏になるのですが、流石にそれは手に入りません。本当に買ったら、幾らするんだろう。そこで上記のように現代刀を入れた訳ですが、どうしてなかなか、これも名刀だったんですね。

 さて紋次郎の長脇差、外観は上述のように、錆朱色の鞘を鉄環と鉄鐺で固めた半太刀拵え、となっています。「半太刀拵え」というのは、要するに全体的には太刀(鎧具足に下げる為の金具を着け、刃を下にして携行する物)の拵えをしてあるけれど、本質は打刀(刃を上にして腰の帯に差す、一般的に知られている刀)という品だそうです。太刀は鞘にも色々と装備があり、それが前述の鉄環と鉄鐺という次第。本当は、柄にも鐺とついになる柄頭を着けるものらしく、映像はそうなっているのですが、これは決まりはなさそうです。そこでとにかく、小説に沿っていればいいや、と思い、まずは鞘に、ベンガラを混ぜた朱色のカシューを塗り、鉄環と鉄鐺を着けました。後は下げ緒の部分に長い楊枝を差しておけばよいのでは、と思ったのです。
 この鐺は流石に作れそうに無かったので、楽天で注文し(これも実は真鍮製で、鉄ではありません)たものです。だがさて、鉄環はどうしたものか。この部分は責金物というらしく、合戦中に鞘を保護する為の金具みたいです。これが何処を探っても手に入らない。そこで真鍮の棒を購入して曲げようとしたのですが、敢え無く失敗。仕方なく樹脂粘土でそれらしく作って、自動車用の塗料で鉄に見せ掛けてあります。
 さて、出来上がってみると、なかなかそれらしくなったようです。鍔に大きな穴(というか、鍔自体が透け透けの構造)が開いていますが、映像では小柄やこうがいを通す穴もありません。でも、下げ緒に楊枝を挟んだら、むしろこの穴が柄の所まで楊枝を届かせてくれて、いい具合になりました。後は合羽と一緒に飾っておいて、時々出して眺めていくつもり。何しろ、一度錆を出したらこの長さはとても自分では処理出来ないので、手入れが肝心ですから。

宇宙暦44年5月31日



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